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大阪高等裁判所 昭和32年(ネ)971号 判決

控訴人 橋本一夫(第一〇五五号事件被控訴人)

被控訴人 岸千代こと岸チヨ(第一〇五五号事件控訴人)

主文

本件各控訴を棄却する。

各控訴費用は各控訴人の負担とする。

事実

第九七一号事件控訴人兼第一〇五五号事件被控訴人(以下単に控訴人と称する)代理人は、第九七一号事件につき、原判決中控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする、との判決及び第一〇五五号事件につき控訴棄却の判決、を各求め、第一〇五五号控訴人兼第九七一号被控訴人(以下単に被控訴人と称する)は第一〇五五号事件につき原判決を取消す、控訴人は被控訴人に対し別紙目録記載の建物を収去して同目録記載の敷地二三坪六合六勺を明渡し、且つ金四千四百円及び昭和三一年四月一日以降右土地明渡済に至るまで一ケ月金六千百五十一円の割合による金員を支払え、訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求め、第九七一号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、認否、援用は、当審で新に、被控訴代理人において甲第六乃至第九号証を提出し、被控訴人本人尋問の結果(二回)を援用し、乙第五、六号証は成立を認める、同第七号証は不知と述べ、控訴代理人において乙第五乃至第七号証を提出し、控訴人本人尋問の結果を援用し、甲第六乃至第八号証は不知、同第九号証は成立を認める、と述べた外すべて原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

当裁判所は次の理由を附加するほか原判決の理由をここに引用する。すなわち、

昭和三一年四月一日以降の本件土地の地代については、原判決中、これが認定について挙示した事実並びに証拠に、当審における被控訴本人の尋問の結果によつて成立を認めうる甲第六乃至第八号証を参酌すると、一ケ月につき坪当金二二〇円計金五、二〇五円二〇銭をもつて相当と思料せられる。

つぎに本件契約解除の意思表示の効果について判断すると、被控訴人は昭和三一年六月下旬にも控訴人方へ地代の取立に行つたにも拘らず、従前の月額四、四〇〇円の割合による昭和三一年三月分以降同年七月分までの地代すら支払はないので、約定に従い本件契約の解除に及んだものであると主張し、成立に争のない甲第二号証の一、原審証人佐藤幸司の供述によつて成立を認めうる同第三号証、同証人の供述及び原審並びに当審における被控訴本人の各尋問の結果中にはこれに副う記載ならびに供述部分があるけれども、後に認定する通り原審並びに当審における被控訴本人の各尋問の結果中この点に関する部分と対比すると右は必ずしも控訴人の真意に適合するものとは認めがたい。即ち右控訴本人の尋問の結果によつて認めうる、契約上は毎月二八日翌月分の地代を持参支払の定めになつているけれども、実際は、被控訴人において二、三ケ月分ずつまとめて集金に赴く例になつており、控訴人はその都度之に応じ曾て地代の支払を怠つたことがなく、昭和三一年二月まで経過した事実に、被控訴本人尋問の結果(一部)、控訴本人尋問の結果によると、控訴人は被控訴人が右各月分(同年三月分を除く)の地代の取立に来た都度増額以前の賃料ならば支払う旨述べて言語上の提供をしたのに対し、被控訴人はその主張の増額請求額(月額坪当金二六〇円)の内金としてならばこれを受取るといつたので、控訴人において内入れとしての支払は出来ない旨答えたところ、被控訴人においてその受領を拒んだので感情の行違から被控訴人は不用意に従来の地代の支払を拒むかのような言語を用いたに過ぎないことが認められ、之を以て適正地代の支払を拒むものとは速断し難く右認定に反する被控訴本人の尋問の各供述部分は措信し難い。

そして当事者間に相当賃料額について争のあるときは、その相当額は、結局判決によつて確定せられるのほかないものといわねばならないから、これが確定に至るまでの間においては、賃借人は従前の賃料の提供をなすことによつてその遅滞の責を免れうるものと解するのを相当と思料するところ、賃借人たる控訴人において、昭和三一年四月乃至同年七月分の従前の賃料を、その履行期の都度被控訴人に提供したのに、被控訴人からその受領を拒まれたこと前示の通りである以上、控訴人には、本件賃貸借契約に特に定められた解除事由である三月分以上の賃料の滞納があつたものとなすことはできないものといわなければならないから、控訴人にその事由のあつたことを前提とする被控訴人の本件解除の意思表示は、その前提を欠く無効のものと断ぜざるを得ない。

結局原判決は相当で、本件各控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条に則つて各これを棄却し、控訴費用の負担につき同法第八九条をそれぞれ適用して主文の通り判決する。

(裁判官 藤城虎雄 亀井左取 坂口公男)

目録

(家屋)神戸市生田区北長狭通二丁目一番の一地上

(但し、登記簿上は同所一番地上)

家屋番号二番

一、木造トタン葺平屋建店舗 一棟

建坪 二三坪六合六勺

(土地)同所 同番地の一

一、宅地一一四坪七合三勺のうち右家屋の敷地二三坪六合六勺。

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